例えば炎・田上の「それでも、はじめない」
田上(例えば炎)
第1話 まだ何もしてない話
この文章の提出期限は1ヶ月前だ。
どうもこうも僕は締切というものを守れたことがない。30年の人生を振り返っても締切を守れなかった回数の方が守れた回数より明らかに多い。
この文章を書き始めたのも、マネージャーが何度も何度も「早くしてください」と催促があり、それに対して「単独があるので…」「あれを提出しないといけないので…」と言い訳ばかり続けて誤魔化していたが、とうとう尽きてしまったのでしなければならなくなってしまった。
しかも今回はタチが悪い。
この文章を書く仕事を自分から始めたいと言ったのにも関わらず、初回から言い訳を並べて、後回しにしてしまった。
なぜ締切までに自分は素敵な文章が書ける人間だと思ってしまったんだろう。
未来の自分に期待してしまう癖がある。
大学生の時もそうだ。
新学期が始まる4月の履修登録でなぜか未来の自分に期待して、1限目の授業を山ほど詰め込むのだ。
今学期からは早起きできる自分、朝活ができる自分、早めに教室に行ってコーヒーを飲みながら先週習ったところを教科書で復習してから授業に挑む自分に胸を膨らませ、履修登録する。
蓋を開けてみれば、「誰がこんな時間割やってられるか!」と過去の自分を呪うのだ。
なぜ未来の自分が今の自分の何倍も素晴らしい人間である気がするのだろう。
今の自分がサボり癖の自分なら、1ヶ月後の自分がサボり癖から抜け出せているはずがない。
今回も締め切りの前の日には魅力的な物事が思いついて素晴らしい文章を書いて、みんなに褒められるんだろうな、こんな文章を書くなんて田上さん流石です!と言われる自分に胸を膨らませ、1ヶ月が経ってしまった。
結局、締切を守れなかった惨めな自分だけが残っている。
文章を書く仕事がしたいといったのは、今年から日記をつけていきたいと思ったからだ。
最近ありがたいことにちょっとずつだが仕事が忙しくなっている。
この忙しさにかまけて、日々をテキトーに過ごしてほとんどの出来事を忘れてしまっているので、軽い日記をつければそれを防止できるのではないか。
ただ日記をつけるだけでは絶対やらなくなるから、文章を書く仕事を入れてもらいサボらないようにしようと思ったのだ。
月に1度、喫茶店でその日記を読み返し、コーヒーを飲みながら「あぁこんなことあったな」とか「これおもしろかったなぁ」とか言いながら文章にまとめようとしていた。
ここまでは日記をサボることから逃げられない完璧な想定だ。
もちろんここまで読んでくれた人ならわかると思うが、今のところ日記は1つもつけていない。
1月1日から始めよう、キリが悪いから2月1日から始めよう、単独が終わったら始めよう、いい日記帳を買ってから始めよう、やっぱりアプリにしようと、とうとう3月まできてしまっている。
今はキリが悪いから年度が変わったら始めようと考えている。
日記のない僕にはやっぱり締切を守れなかった惨めな自分だけが残っている。
僕はいつもこういう追い込まれた状況になると頭の中でKAT-TUNの「Real Face」が流れる。
「ギリギリでいつも生きていたいから さあ思いっきりブチ破ろう リアルを手に入れるんだ」
今年からは未来の自分に期待せず、「リアル(な自分)を見つけにいこう」と思っている。