ピ蔵本〜僕と僕の本たちの物語

ピストジャム

第52話 『弾丸とヒマワリ』箕輪尊文

 第七十二回江戸川乱歩賞受賞作。過去に二度、江戸川乱歩賞最終候補に選ばれた著者が今年デビューをつかみ獲った渾身のミステリー作品。

 主人公はPKO(国連平和維持活動)に従事した二人の自衛官、野島武と本庄恵梨香。二人は帰国後、退官し民間人となっていたが戦地でのトラウマから鬱々とした日々を過ごしていた。

 野島はクリーニング店で働きながら違法薬物の売人、本庄はピザの配達のアルバイトをしている。そんなとき、女子高生が自宅で射殺されるという凶悪事件が起きる。

彼女の手にはPKOに参加した自衛隊員に授与されるというメダルがなぜか握られていた。はたして犯人は誰なのか、事件の真相は……。


 臨場感ある自衛隊の描写に引き込まれた。戦地で起きたある事件も、もしかしたらそのようなことが実際にあったかもしれないと思わせる高い筆力に圧倒された。

 日常生活の破れ目から顔をのぞかせる裏社会の存在、野島に接触してくる元地下アイドルとの交流、現在と過去が交錯する構成。くわえて自衛隊に関する小説を読んだことがなかったので、最後まで興味深くぐいぐいと物語に引っ張られた。


 江戸川乱歩賞は賞金が高い。なんと五百万円。

 芸人の感覚からすると有名なお笑いコンテストの優勝賞金と同額(R-1グランプリは五百万円、M-1とキングオブコントは一千万円だがだいたいコンビなので折半したとすると一人五百万円になる)なので、毎回受賞作が気になっている。ちなみに松本清張賞も五百万円なので、こちらも非常に注目している。


 昨年末、松本清張賞受賞者対談イベントの司会をさせていただいた。出演されたのは第三十一回受賞作『イッツ・ダ・ボム』の井上先斗さんと第三十二回受賞作『白鷺立つ』の住田祐さん。

 好きな作家の話から賞金の使い道まで、ざっくばらんにうかがった。お二人とも気さくに答えてくださって、会場では笑いも起こり大いに盛り上がった。

 そのなかでとくに印象的だったのは、お二人とも会社勤めを辞めるつもりはないとおっしゃっていたこと。勝って兜の緒を締めるとはよく言ったもので、お二人に浮き足立ったところはまったくなかった。

 僕だったら絶対に辞めている。いつになったらバイト辞めれんねん、と思いながら芸人を続けている状態なので、お二人のお話には心底驚いた。


 本を読む人が減少し、本屋もどんどん閉店していっている昨今。たしかに専業作家として食べられている人はひと握りだという噂も聞いたことがある。

先日のニュースでは、一か月に本を一冊も読まない小学生が一割を超えたという。中学生では二割超え、高校生に至ってはほぼ五割がそれに該当するらしい。

読書離れは大人世代の問題だけではなく、全世代に広まっている。

インターネットが普及する以前は本や雑誌があらゆるものの情報源だったし、娯楽の一つとしても読書は君臨していたと思う。でも、いまはスマホがあればドラマも映画もYouTubeも観られるし、ゲームまでできる。

 そんな環境では、なかなか読書する気が起こらないのもよくわかる。ましてや現在はショート動画全盛の時代、読書は時間も体力もいるし時勢とかけ離れている。

 このままでは出版業界は縮小の一途をたどり、作家を志す人も減っていくのではないか。そう懸念していたら、文学賞の公募数はここ数年で増加していると聞いた。

 これは真偽が定かではない噂レベルの話だが、生成AIを使用して手軽に文章の作成ができるようになったことで作品数が増えたのではないかといわれている。読書の機会を奪ったインターネットが、ここで登場してくるなんてまるでSF小説だ。


 そんななか、いま韓国では空前の読書ブームが巻き起こっている。デジタル疲れの反動から、若者を中心に読書がクールで知的な趣味として流行しているのだ。

 その広がりはテキストヒップと呼ばれ、読了した本をSNSにアップしたり(結局インターネット使うんかい)、独立系のおしゃれな書店を巡ったり、各地で開催される読書イベントに参加したりするのだという。僕は思った、これは第一芸人文芸部のことじゃないかと。

 もうしばらく待てば、テキストヒップの波はきっと日本まで伝播してくる。そうなれば第一芸人文芸部はいろんな読書系の仕事で引っ張りだこになるはずだ。

 これで、ついにバイトを辞められる。いや、これは辞めないほうがいいのか。いや、やっぱり辞めたい。そのときが来たら、井上さんと住田さんに一回相談してみよう。



『弾丸とヒマワリ』

著/箕輪尊文

出版社/講談社



※次回の更新は、11月18日(水)の予定です。