
何者かになりたくて

奥田修二(ガクテンソク)
第1話 ひとり暮らし
はじめまして奥田修二です。四十路独身漫才師です。もちろん「ひとり暮らし」です。「一人暮らし」とも、「独り暮らし」とも書きたくないタイプです。特に後者の孤独感ったらハンパないでしょ? 別に孤独じゃないんですよ。ひとり暮らしが長いから、家にひとりが当たり前で、それが普通なんですよ。全然、楽しく過ごしてますから。
あ、あんまり言ったら、ホンマはめっちゃ寂しいみたいになるからやめとこ。
僕が初めてひとり暮らしをしたのは、齢(よわい)十八の頃。名目としては「専門学校に通うためのひとり暮らし」ということになっていましたが、学校は実家から余裕で通えるくらいの距離にあったので、実際は「ひとり暮らしをしたいがためのひとり暮らし」でした。齢十八ってそういうお年頃でしょ? ただ、両親の了承を得るのには苦労しました。だって、余裕で通えるんだから。
「あ、この子は学校の近くに住まないとダメだ」
そう思ってもらえるように、出席日数を計算して、絶妙なラインで遅刻と寝坊をするようにして、なんとか納得してもらいました。こんなに苦労しなくても、将来嫌というほどひとり暮らしをすることになるのに。
専門学校を卒業してからは、実家に戻って家業を手伝っていたのですが、齢二十三でM-1に出場し、齢二十五でbaseよしもとのオーディションに合格したのをキッカケに実家を出ました。
最初は銀シャリの橋本さんたちとのルームシェアでしたが、齢二十七で、改めてひとり暮らしを始めました。この年から数えると、齢四十二の今年、ひとり暮らし15周年となります。
「奥田さん! 15周年おめでとうございます!」って誰か言いましたよね? ありがとうございます。
あと、年齢を「齢」で表していくのはここまでにしときます。かっこいいと思ってやってみたんですが、思ってたより文法が難しかったです。だからこそ使いこなせたらかっこいいんでしょうけど。
ということで、僕のひとり暮らしについて書いてみようと思います。
まず、僕の見た目か、言動か、日頃の行いからなのか、やたらこだわりが強いと思われがちなんですが、全然こだわりはないです。
「他人を家に入れたがらなそう」なんて思われがちですが、むしろウェルカムです。大阪で暮らしていたときは、後輩を家に呼んでは、アイドルのライブ映像を観る会をよく開いていたくらいです。
誰かが部屋に来る予定があると、普段しないところまで掃除したりするので、むしろありがたいくらいです。世の中には「家事代行サービス」というものがありますが、家事代行サービスの人が来ると思うと、失礼のないように先に掃除をしてしまいそうです。
ということで、家事はすべて自分でやります。料理もまあまあ好きなので、食べたいものがあったらネットで調べて作っちゃいます。食器を洗うのも昔は嫌いでしたが、最近はなぜか食器を拭くという作業がお気に入りなので、積極的に洗うようになりました。
洗濯は若干苦手です。洗濯機を回すのはいいんですが、干してたたむという作業がたまらなくめんどくさいんです。
この15年間で、いわゆる「実家のありがたみ」みたいなことを感じたのは、洗濯物を干して、取り込んで、たたんでいるときだけだと思います。
ただ、実家ではたまにお気に入りのTシャツをギュンギュンに縮められたりしていました。そういうアクシデントは起こらなくなったということで、実質プラマイゼロです。さらに今は、ドラム式洗濯機を導入したので、もはやプラになってます。
「あー、だから独身なんや。家事ができる男って、女性にとってはプレッシャーになるっていうもんね」なんて言われることもあります。こういう意見には、「いや、ひとりやねん! 誰がやるのよ! ほんで、やり続けたら否が応でも上手くなるやろ! 某国の飛翔体もそうよ! 最初は下手やったけど、だんだん上手くなっていってもうとるがな! そもそも発射させたらあかんのよ! 何してんのよ世界は!」と、世界情勢を織り交ぜつつ反論したくなります。
独身とひとり暮らしは、似てるけど違うってことだけは覚えておいてください。僕は、ひとり暮らしをしているだけです。
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他、たくさんのエピソードを収録!
【15年間のM-1グランプリ挑戦】
【四十代独身ライフ】
【芸歴18年目の上京】
【THE SECOND優勝】……
ガクテンソク・奥田修二が
「四十路独身上京漫才師」としての日々を綴った初エッセイ集
『何者かになりたくて』
奥田修二著
2月14日発売
定価1650円(税込)
発行ヨシモトブックス
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