
鳴らせ心臓

坂田光(サンシャイン)
第5話 春を待つ人よ
春はいつだろうか?
昼下がりの中庭、太陽の日差しが差し込む。家でのネタ作り中、気分を変えようと街に出た。文明のど真ん中、虎ノ門ヒルズの中庭でスマホを出してこれを書いている。ベタな六本木ヒルズではなく、かといって麻布台ヒルズは敷居が高すぎて怖気づき、間をとって虎ノ門ヒルズ。単純に虎ノ門って名前がカッコいいよな、と小学生の僕が背中を押した。
中庭といえど日差しが当たる場所はポカポカと、まるでスープに抱きしめられてるような心地よい温もりだが、日陰にいくと突風のビル風にさらされ、自分は高度ゼロの雪山に遭難したんじゃないかと思うぐらい体温を持ってかれる。中性脂肪爆アゲ男子のくせに寒さにめっぽう弱い僕は、これくらいのビル風でも音を上げてしまう。インバウンドの影響で欧米の方たちも沢山いたが、みんな半袖。僕はロンTにコーチジャケット羽織ってたのに、大人も子どもも男性も女性もみんな半袖。ポテンシャルが違う。
寒がりの男って1番ダサいよな。自分の嫌いなところ上位に入る。ちなみに1位は練り物が食べられないところ。こんなに酒好きなのに。練り物食べれないなんて、本当わけわかめ。涙で増えちゃうよ。
昨今の気温は一段と激しく日々変動し、3月なのに東京に雪が降ったり、かと思えば急激に暑くなったり、地球もどうやら情緒がおかしい。大丈夫か? 毛布とスープ持って来ようか。一旦ちょっと横になってくれ。代わりにやれることやっとくから。
こんな脆弱な僕が地球の代わりに出来ることと言ったら、春の訪れをみんなに教えてあげることだ。本来、この国では桜の開花が春を教えくれる。四季のあるこの素晴らしい国で、国花である桜は、人々の暮らしや生活の中で素晴らしい活躍をする。しかし昨今、桜も開花が遅かったり、咲いてもすぐに散ったりと、中々に情緒が乱れてる。これじゃあみんな今が春かわからない。昔ほどミュージシャンも「桜」の曲を出してない。音楽番組の今週のトップチャートに桜の曲が3、4曲入ることもない。むしろトップ10を教えてくれる音楽番組も少なくなった。あの頃の僕たちはケツメイシが、コブクロが、森山直太朗が、河口恭吾が、宇多田ヒカルが、YUIが、沢山のミュージシャンが春を教えてくれた。じゃあ代わりに春の訪れはどうやったらわかるの? 教えて、中性脂肪爆アゲ年中黒ウーロン茶くん! それはね、
芸人が草野球やりだしたら。
芸人というのはとにかく草野球が好き。でも怠惰でだらしない生き物。プロ野球はもちろん毎年3月からオープン戦があって、どんなに寒くても暑くてもそこからリーグが始まるけど。芸人はちゃんと晴れて、あったかくならないと動き出さない。芸人が草野球をやりだしたら、本当に春が来たってことなんです。
僕が所属している草野球チームは、ママタルトを主宰に色んな事務所の芸人や作家や関係者の人たちが実力経験関係なく、のびのびと好きなように集まってやっている。僕なんて5、6年前の立ち上げ当初からいるけど、一切野球経験もないし、むしろグローブも持ってない。あるのはただ楽しむパッションと、ガヤのための喉だけ。それでも僕たちの野球が春の訪れを叫ぶ。
「野球ー!!」「おいおい、今のプレーまじ野球!」「ランナー2塁で、一打逆転のチャンス、これって、、、せーの、野球ーーー!!!」
僕らはとにかく、野球っぽいプレー、野球っぽい流れ、野球っぽいムードになったらとりあえず「野球ー!」と叫ぶ。とんでも素人大集合の初めての野球。これをもう何年もやってる。ちゃんとそこそこテレビに出たり、舞台や仕事も、なんなら賞レースで大活躍してる芸人たちも、この日ばかりは平等に、朝から集まり、一同に野球と叫ぶ。これが本当に楽しい。全員がほどよいおじさんだから最初元気でわいわいやってるのに、ちゃんと後半疲れて声が出なくなる。普段運動してないのに急にダッシュや、思い切りバット振ったりボール投げたりするから、ちゃんと筋肉痛で次の日動けない。なんならもう当日に筋肉痛で動けなくなる。それでも僕たちは「野球ー!」と叫ぶ。
平日のお昼に市営公園のグランドを貸し切ってやるけども、平日だからか隣のグランドでは一般の方たちの草野球チームも定年されたご年配のシニアチームの方たちばかり。ほのぼのと野球が交わる。フェンスの外には、近くの保育園児の子たちが散歩で来ていて、僕たちのへっぽこ野球に目を輝かせる。僕が打席に立った時に、アンパンマンさながら「顔が濡れて力が出ない……」と別に濡れてもないんだけど、力が弱ってバットを持てないフリをすると、周りの芸人が子どもたちにパスを送る「みんな!応援してあげて! いくよ、せーの!」
「がんばれぇ~!!!!!!」
「うぉおおおおおおぉぉ!!!!!」
そうしてパワーを貰い立ち上がりフルスイング。三振。バッターアウト、チェンジ。最高のフリとオチ。ありがとう子どもたち。あの瞬間、あまりの多幸感に僕は天国で野球をやってるかと思った。天使たちと一緒に神々が野球で遊んでるかの如く、全ての愛がそこにあった。キャッチャーしてた後輩が言った。「もっとウケていいのにな……」やめてくれ。冷静に判断しないでくれ。そこは、「野球ー!」でいいんだよ。割に合わない、じゃないんだよ。ウケてないしアウトなのは僕なんだから。
それでも草野球は楽しい。楽しすぎる。4打席ノーヒット、2エラーの僕でも誕生日順でその日の4番を打つ緩さ。この緩さと気持ちのいい天候、環境、愛。そして何より、、、安い。20人の大人が4時間しこたま遊んで笑って、1人400円。嘘だろ。安すぎるだろ。コスパの果ての嵐。そして終わりに売店でファンタとブタメンで乾杯。1000円かからない。ありえないよ。これが草野球。春の訪れと本当の幸せを教えてくれる。皆さんも近くの市営グランドを覗きに行ってください。グランドからガヤと笑い声が聞こえたら、それはもう春。大ファンになったつもりで応援してください。あなたはもうサクラ。いい加減、外野フライが取れるようになりたい。
※次回の更新は、5月22日(木)頃の予定です!