芸人怪談 怖い寄席
吉本芸人
第4話 「お連れさん」伊山亮吉
芸人とは、不思議な生き物でございます。
人を笑わせる力は時に“何か”を引き寄せてしまうのでしょうか。
霊の気配に人の闇、神仏やら妖(あやかし)やら得体のしれないものまで――
ここに登場するのは、そんなものを引き寄せてしまった1人の芸人。
語られるのは、実際に耳にしたり、身にふりかかったりした、いわくつきの話の数々。
怖いのに、どこか笑える。笑ってたら、いつの間にかぞっとする――
そんな不思議な“怖い寄席”、ひとつ、ゆっくりご堪能あれ。

撮影/是永日和
吉本本社も
『怪談ライブBarスリラーナイト』も新宿・歌舞伎町エリアにありますが、歌舞伎町って変な場所ですよね。大久保公園近くにある第六トーアビルなんて、ある1ヶ月間に5、6人飛び降りたんですけど、報道されていないんです。人が死にすぎちゃってるから、報道もされない。
あそこで死のうとしたけどなんだかんだ死ななかった、という子にも会ったことがあるし、飛び降りを見たことがある人にも会ったことがある。人が死にすぎちゃって屋上まで行けなくなっているから、変に低い階から飛び降りちゃって高さが足りなかったんでしょうね、第六トーアビルの1階の飲食店で働く人が、どちゃ、と聞こえたから見に行くと、両手両足が反対に折れた女の子がいるけど、生きているんですって。
「うー、うー、」
と、泣いているのか呻いているのかわからない声で、「うー、うー」と言いながらカエルみたいになっているんです。打ちどころがいいのか悪いのか、血が出ていないんですって。そんな姿を見たときに「いっそもっと高さがあったほうが、楽だっただろうにな、と思った」という話を聞いたりしますね。
歌舞伎町は、ラブホテルの話も多いですよね。
たくさん聞いてデータが揃ったんですが、「幽霊が出る」と聞くのは全部安いホテルなんですよ。高いホテルは出ないんです。つまり、高いホテルを利用できるような人は、ラブホテルで死ぬ状況にならないんだと思います。この街で7年間取材していて、「バリアンリゾートで幽霊を見た」なんて1回も聞いたことがないですから。
中でも僕が好きなのは、「ホテルJ」というラブホテルにまつわる話です。そこの受付のばあさんの態度が悪いって有名なんですけど、キャッチのお兄さんから「キャッチの先輩がこんな体験してさあ」と聞いたんです。
今から5、6年前、
仕事が休みの日だったそうです。馴染みの店がいっぱいあるからと、仕事が休みだとしても歌舞伎町に遊びに行くんです。結構早い時間から飲んでたもんで酔っ払っちゃって、そろそろ帰ろうかなと思ったらちょうど終電がすぎた頃。どうしようと、タクシーに乗って帰ると結構な額いっちゃうかな。この額使うなら安いホテル泊まって、始発の時間に出ればいいや。それで安いホテルにいこうと、「J」に行くんです。
受付のばあさんはそのときは普通で、5階の部屋の鍵を受け取ったんです。エレベーターで5階に着き、そのままバタンと寝ちゃうんです。起きてシャワーを浴びて、よし帰ろうと思ってエレベーターを降りて受付に行くと、まだ自分が対応したばあさんだった。まだ交代前なのか、と思いながら鍵を渡して出ようとしたら、「ちょっとちょっと!」と言われて、「お連れさんは?」と言うんですよ。
「あ、ひとりです」
「いやいや……お連れさんは!?」
というやりとりを何回も繰り返す。しつこいんです。先輩もムカついてきた。
「ひとりだっつってんだろ。じゃあおまえ、確認すっか? じゃあ来い」
そう言ってばあさんを半ば無理矢理連れて5階の部屋に行った。
「どこにいんだよ? いねえだろ? ひとりなんだよ」
それでもばあさんは「いや、いました」。ホテル側がそう言っている以上帰れないんですって。もっと揉めて、「警察呼ぶか?」「呼びましょうよ!」と、警察が来たんですよ。警察官立会いのもと、このホテルの監視カメラを見ることになったんです。
警察官、キャッチの先輩、ホテルのおばさん、3人で見たら、たしかに先輩、真っ赤な服を着た女性と来ているんです。
どんなに酔ってても、一緒に女性がいなかったことくらいわかるじゃないですか。でもたしかに、監視カメラの自分は、赤い服を着た女性と来てるんです。そして一緒にエレベーターで上がっていくんです。一緒に5階の廊下を歩くんです。ばあさんは「ほらあ!」とずっと言ってる。でもありえない、ありえない……と思って映像を見ていると、部屋の前まで来たら先輩は普通にドアを開けて中に入ったんですけど、真っ赤な服を着た女性は廊下に立ったままだった。入らなかったんです。
ただ、ばたん、とドアが閉まった瞬間、そのドアをすり抜けて中に入ってくるんですって。その一部始終が映像に残ってる。
「うわあーー!」
「うわあーー!」
先輩もおばさんも思わず声をあげるけど、これ、重要なのは警察官も見ているということですよね。当の警察官はぼけーっと見ながら言うんです。
「またこれですか……捜査できないんでもう帰ってください」
警察官にとって、“歌舞伎町ラブホテルあるある”だったということですね。
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伊山亮吉(風来坊)
1992年6月3日生まれ。双子座。血液型:A型。神奈川県出身。東京NSC17期生。2021年にお笑いコンビ「風来坊」としてデビュー。もともと幽霊にロマンを感じる怪談オタクで、ライブの合間に怪談を披露するようになったところ「普通のネタよりも芸人が袖に集まるようになった」ことで本格的に蒐集を開始。観客を引き込む表現力と構成力に定評があり、著作『実話奇談 異怪ノ門』(竹書房)、DVD「怪奇蒐集者伊山亮吉」「怪奇蒐集者 怪談中毒 伊山亮吉」をリリース。「怪談ライブBarスリラーナイト歌舞伎町店」で怪談師を務める。怪談最恐戦2022の5代目王者。2024年TokyoKaidanFestival優勝の初代怪祭王。YouTube チャンネル/伊山亮吉の怪談チャンネル
「怖い寄席」はまだまだ終わりません――。
今回ご紹介したのはほんの一部。書籍版には、13名の芸人による全67話、380ページにわたる“ホンマにあった怖い話”を収録しています。続きはぜひ書籍で。