自意識過剰デトックス

狩野大(バリカタ友情飯)

第4話 漫画好きが漫画好きであるために

漫画が好き。

毎日ように週刊誌やアプリで読んでる。

いい歳して、いまだに友人と今週のあの漫画読んだ?なんて話をする。


しかし僕は「漫画が好き!」と大きな声では言えない。

なぜなら僕が芸人だから。


芸人という仕事は最高に楽しくて、今のところなった事にまったく後悔はない。ただ自分の趣味がいつの間にかコンプレックスになってしまった、という点では心にしこりが残っている。


現在、芸人における「趣味」はもはや仕事化しないといけない時代。

先人の方々の数々のトーク番組での活躍により、漫画が好きな芸人ならあれほどの博識ぶりを面白く披露できないともはやお話にならないよと、漫画好き芸人を名乗るハードルが高くなってしまったように思う。


一般人なら趣味の熱中度なんて他人に測られる必要もない。ところがこと芸人においてはヘタに「漫画が好きで〜」なんて言ったもんなら1作品、もしくは1ジャンルに深く傾倒するか、より広く作品を網羅していないと漫画好きと名乗ることすら許されない。…のかもしれないというジレンマに日々勝手にうんざりしている。



じゃあ、ちょっと待て狩野と。

お前がこの世に爆誕して32年。1番ハマった漫画を言ってみろ。漫画が好きと言うのなら! 人並み以上には読んできたお前が言うのなら! 深くハマった作品の一つや二つ必ずあるはずだろ。まだうんざりするには早い。答えてみろ。そう自分に問いかけると返ってくる漫画は1つ。


「ONE PIECE」


もう1つは?と問われれば、


「HUNTER×HUNTER」


腰が抜けるほどのど真ん中ストレート2作。うんざりした。

この2作は、好きを語るなら最低限の考察はもはや必須。するにしても他と被らないようなオリジナリティある考察が求められる。シンプルに好きと言いたくても、明言するにはあまりにもハードルが高い。


「意外とルフィがツッコミに回るシーンが好きだ」とか、「プロとして甘いナックルと中指立てて戦線離脱するモラウどっちもわかるなぁ〜!」とかそういう話がしてぇんだけど、僕は。


じゃあ狩野もう一度問う。本当にこの2作が1番ハマったのか?他にも無いのか?

再び自分に問いかけると出てくる漫画は、


「ドラゴンボール」

「スラムダンク」

「NARUTO」

「進撃の巨人」

「僕のヒーローアカデミア」


ネプリーグのファイブボンバーで「日本の名作漫画ランキング10位以内の作品5つ答えよ」とでも言われたかのような並びになる。

本当に好きなんだからしゃーない。さすが、名作。


なら漫画が好きなのであれば、読んできた量で勝負だ。

そう思いたいところだが意外と“超”読んできたかと言えば、そこまで“超”ではないのが恥ずかしい。


例えば漫画好きの男なら誰しもが読むべきバイブルの刃牙、ジョジョ、キングダムは序盤しか読んでない。

コーラ一気飲みとザ・ワールドと王騎の存在だけ知ってるにわか中のにわか。

なぜか、北斗の拳とかカイジとかドカベンはしっかり読んでる。


ならサブカル寄りの作品ならどうだろう。

これも残念ながらサブカルバイブルのAKIRA、稲中卓球部、ソラニンとかは読んでない。

なのに福満しげゆきさんとか押見修造さんの作品はかなり読んでいる。


クチコミで話題になった新進気鋭の漫画の数々も、話題になったから読んでるようなもの。

というかサブカルってなんだろ。ヴィレヴァンにあればサブカルなんだろうか。なら全然読んでないぞ。


あえての少女漫画、みたいな特定のジャンルだけ特化して読んでるというわけでもない。

世間的には読んではいる部類ではあるはずなのに、テレビに出ている方々ほどめっちゃ語れるかと言えば自信はないのだ。


要は漫画を好きとは言ってもいいけど、芸人として好きだと断言できるほどの熱中度をもってないことが、芸人を始めてからコンプレックスになってしまった。

大好きなお笑いを始めたら、大好きな漫画を好きでいることに疑問を持ってしまう。こんな悲しいことあるのかよってなもんである。


何なら芸人は、みんな漫画好きでびっくりした。そして「漫画・アニメ好き」という趣味が昔に比べてオタク的でダサいみたいな風潮がとっくに過ぎ去り、もう皆ある程度読んでるし、語れる時代にもなってしまったのだ。


となると売れてないヒマな芸人にできることはマイナーどころを早めに押さえるか、誰よりも深い「作品への尊い愛」、これを培うしかない


ただ、義務のように毎日これだけ漫画読む!みたいな目標なんて決めようもんなら、「そういうこと」ではないのだ。

好きなものを追求するのってたぶん「そういうこと」じゃない。


こうして右往左往して悩んだ結果、僕は一つの結論に辿り着いた。

芸人・狩野の漫画好きを胸張って仕事としても趣味としても成立させる究極の答え。それは、



僕自身がめっっっっっちゃ売れる。



マジでこれしかない。

僕自身が売れてれば、もう関係無い。

僕が売れて世から求められるようになって漫画を好きに読んで、好きに語れる場を自分で作れるようにする。


テレビだっていい、YouTubeだっていい、ラジオだっていい。

だから毎日の目の前の仕事を一生懸命取り組んで結果を出すのだ。

「毎日の仕事を頑張る」ための「好きな趣味を誇れる」ようになるために「毎日の仕事を頑張る」という奇妙なスパイラルに突入している。



じゃあ狩野!お前が売れるためには何をすべきか!?



決まっている“M-1グランプリ優勝”。


ルフィがワンピースを手にするより、ゴンが親父と会うより、ナルトが火影になるより難しいじゃんか!!!!!!