楽屋百景

吉本芸人

第1話 楽屋について本気出して考えてみた(バイク川崎バイク)

BKBことバイク川崎バイクです。

現在は芸歴20周年。The中堅ピン芸人です。

僕は楽屋が好きです。

普段は主に一人で活動しているので、みんなと過ごせるあの部屋がたまらなく、楽しいのです。

まさに“楽屋”。


きっと『楽しい部屋』の略称なんだろう。勝手にそう思っていたので、一応調べてみました。


【楽屋とは・・・舞楽の演奏家である楽人が、楽の演奏をする場所であった「楽之屋(がくのや)」が略された言葉】


全然ちがいました。恥ずい恥ずい。

舞楽……? 楽人……? 聞いたことがなく読み方すらあやうい言葉たちが並んでおりました。

まさにBKB(勉 強 不足)。

要は、歴史ある言葉なんですね。


話を戻しまして、楽屋が好きです。

今回、せっかくの楽屋エッセイなので、ピン芸人から見た楽屋への思いや出来事を、3つのお話に分けて綴ろうと思いますので最後までお付き合い、いやニケツしてくれたら幸いです。ブンブン。



    *



①楽屋楽しい

まず楽屋の楽しさから。

何が楽しいって、楽屋はそこで“偶然”一緒になった人と過ごせるのが楽しいのです。

この、偶然、というのが好きです。


楽屋にも様々な楽屋があります。

劇場の楽屋、営業先、外現場、テレビ局などなど。


スタンダードな劇場に関して言うと、出番や香盤は僕らが決めるわけではないので、誰と一緒になるかはスケジュールが出るまでわかりません(自分たち主催のライブは除く)。

なので、あまり話したことはない芸人なんかとも、楽屋が一緒になったおかげで親しくなったり、ご飯に行く機会になったりします。


これは思うに、テレビのザッピングに少し似てます。何を見るかは決まってないけど、たまたま適当にチャンネルをまわして、おもしろい番組を見つけたあの感覚。

「今日こんな番組やってるんや」的な、「今日この芸人いるんや」みたいな。


同期のライス関町や、後輩のミキ亜生などは楽屋で会うと「今日バイクいるのかよ、楽しいじゃん」とか「今日バイクさん一緒だ。うれし~」みたいな優しい言葉を投げてくれることもあります。

ピン芸人先輩の佐久間一行さんも「BKBに会うと元気になるんだよね~」と言ってくれて、「僕もまったく同じ気持ちですよ」と佐久間さんに返します。


とはいえ『全芸人が楽屋ではおしなべてワイワイ過ごす』というわけではありません。


楽屋の過ごし方に決まりはありません。いろんな人がいます。あくまでこれは僕の個人的イメージですが、例を挙げると―――─(敬称略)



とにかく隙あらばしょうもないお話をうだうだする人

→(例)BKB、ライス関町、ヘンダーソン中村


合間にネタあわせ、ネタつくりをよくしてる人

→(例)インディアンス、GAG福井、コットン西村、単独前ジャルジャル


もくもくとスマホを眺め過ごす人

→(例)さや香石井、藤崎マーケット田崎


パソコンとにらめっこしてる人

→(例)マヂカルラブリー野田クリスタル


ずっとめっちゃタバコ吸ってる人

→(例)マヂカルラブリー村上、シソンヌじろう、インポッシブル、ななまがり


楽屋を飛び出し外食する人

→(例)ミキ昴生


なんらかのゴシップを提供してくれる人

→(例)サバンナ八木、レイザーラモンRG、ガクテンソク奥田


プライベートでBKBと懇意にしてるのになぜか楽屋ではあまり話しかけてこない人

→(例)ニューヨーク屋敷


どこにいるかわからないけどどこかにいる人

→(例)アインシュタイン河井



……とまあ、BKB調べの、偏見混じりのごく一部のデータですし、日によっては変わりますが、イメージはこんな感じです。


なんにせよ、どう過ごすかは自由ということです。


何度も言いますが、楽屋が好きです。

気分が落ちてる日も、楽屋で芸人と軽く話すだけでいつのまにか元気になっていたりすることもあります。

僕と同期にあたる、囲碁将棋の二人は楽屋で会うといつも「おお!! ヒィアヒィア!」「Bちゃん! ブンヒィアヒィア!」と挨拶? してくれます。

もうこれだけで楽しいです。伝わらないかもですが。およそ社会人の挨拶のそれではありません。


ですので僕個人的な意識としては、楽屋で芸人に会うために、ネタをブラッシュアップしたり単独ライブをしたりテレビに露出できるようにしたりして、なんとか劇場出番がなくならないようがんばる、まであります。


それで言うと楽屋の厳しさを少し──―─

群雄割拠の世界なので、出番が減ってしまいあまり会わなくなった人もいます。

吉本興業というマンモス事務所がゆえ、そもそも劇場レギュラー所属になれず辞めていく人もいます。

楽屋の楽しさを味わえている裏側には、味わえない厳しい世界も並行しているのです。

(あえて劇場を減らして別の仕事にシフトする人や、売れっ子でテレビが主戦場の人などもいるので一概には言えませんが)


僕も大阪から上京して10年経ちました。

眠れない夜に、ふと思います。

現時点は、まだ劇場に立たせてもらっていますがこれがいつどうなるかはわかりません。


ベテラン漫才師さんはたくさんいますが、色物ピン芸人の自分はいったい何歳まで舞台に立てるのだろう、と考えてしまうことはあります。


だってあんまり見たことがないですから。

「ヒィア!」「ブンブン!」みたいな叫び重視のネタで、一人喋りをしてる師匠ピン芸人を。


同期の元和牛の川西が「おじいちゃんになったBKBが一番笑えるかも」と冗談混じりで言ってくれたことはあります。

しかし現実問題、「レツゴォォー!」と高い声が出せなくなるかもしれない、「ブンブン!」のときに肩が上がらなくなるかもしれない、「ススス!」が素早くできなくなるかもしれない。(ネタをよく知らない人は、意味不明ですね)


まあ……深く考えず、まずは50cc(50歳)の原付バイクまで舞台に立ち続けることを目指しますので応援よろしくお願いします。ススス。



    *



②楽屋は出会い

先程もチラリと言いましたが、あまり話したことのない人と仲良くなることがあるのが、楽屋のいいところ。


それが体現されたお話を一つ。

今から約10年前、大阪から東京に出てきて一年目の頃。今でも鮮明に覚えています。


けっこうな先輩にあたる、南海キャンディーズさんと某学園祭で一緒になりました。

南海さん自体には、『怖い』というイメージはなかったのですが、やはりあまり話したことのない超売れっ子先輩と一つの部屋というのは緊張するもの。


今だから言えますが、特にしずちゃんさんに緊張していました。

山里さんは以前から気さくに声をかけてくれていたほうで、この日も「おお、BKB。東京出てきたらしいね」などと話してくれました。けれど、おそらく人見知りであろうしずちゃんさんからは「おはよう」の言葉以外、聞いたことがなかったのです。


そんな楽屋の空気を察したのか、山里さんが口火を開きました。


「……しずちゃんとBKBさ、せっかくだし、ちょっと二人で話してみなよ」


あんなに器用に言葉を並べる山里さんとは思えない、突然の荒すぎるアテンド。


ただでさえ話したことのない、ボクシングの強い女性先輩芸人と何を話せば……?

僕がわかりやすく狼狽狼えていると、しずちゃんさんがゆっくりと、こう言いました。


「……おすすめの歯医者とかある?」


「いや、絶対一言目それじゃないよしずちゃん」


「でも探してるから」


「にしても、上京したてのBKBと話すテーマじゃないでしょ」


掛け合う南海キャンディーズ。

テレビを見てるみたいだ。

しずちゃんさんはあまり話さないイメージなだけで、楽しい人だった。

山里さんもフォローしてくれる。

和む楽屋。


そこから、楽屋にうっすらと張り詰めていた緊張の氷は一気に溶け、温かい西日が差したのです。

南海キャンディーズさんは緊張してる僕を慮ってくれたのです。


さらに奇跡的に、僕はおすすめの歯医者を知っていました。

当時、僕は幡ヶ谷という落ち着いた場所に住んでいました。大阪から引っ越ししたてではありましたが『近所の歯医者はすぐ見つけたいタイプ』の僕はまず歯医者に行っていたのです。

そこの雰囲気がとてもよかったので、その話をすぐに返すことができました。


「ありますよ。幡ヶ谷なんですが、キレイで痛くなくて……」


「いや、あるんかい、おすすめの歯医者」


またツッコんでくれる山里さん。

和む楽屋。


「え、幡ヶ谷? 幡ヶ谷なら、わたしたまにご飯とか行くで」


食いついてくれたしずちゃんさん。

和む楽屋。


「そうなんすね、え、どのへんですか?」


「幡ヶ谷の商店街のとことか」


「はいはい、ありますね」


「あと、餃子もおいしいとこあるし、え、今度行く?」


「え、いいんすか! 行きます!」


「連絡先教えて、LINEでいい?」


「はい!」


まさかの具体的にご飯の約束まで。

これには山里さんも意外だったようで「いや、ちょっと話してとは言ったけど。展開早くない? BKBよかったじゃん」と言ってくれました。


あれから10年───―

社交辞令ではなく、当時本当にご飯に誘ってくれたしずねえ。今でもたまに連れて行ってもらっています。


今あるコミュニティや関係性は、こういう小さなキッカケの積み重ねだと思います。


『ご飯に行ったから仲良くなった』ではなく、『ご飯にいくキッカケの楽屋がそこにあった』わけです。


もっと言うと『南海キャンディーズとバイク川崎バイクを呼んでくれた大学』のおかげです。


ありがとうね! 当時の学祭の実行委員さん!



    *



③楽屋エモ思い出

最後に、ちょっと『いい話』をお届けします。

先に言っときますが、これほんといい話すぎて、逆にやらしくなるかもしれません。

ですが、やはりせっかくの楽屋百景なので、その一つの景色をお伝えさせてください。


これも10年ちょっと前。

2013年の後半くらいだったと思います。

ちょうどそのとき、自分で言うのもアレですが、確実にプチブレイクしてた時期がありました。

初めて全国のネタ番組で何度かハネて、笑いの殿堂『なんばグランド花月』での単独ライブも満席になり、テレビのCMにも出れた頃。


当時、大阪所属だった僕は、大阪の劇場に出つつ、東京のテレビのお仕事も急に入ってくる、みたいなスケジュールでした。


その日は、大阪での通常ライブの日。

スーパーブレイク前のかまいたちや、アイロンヘッド、クロスバー直撃さんなど、今でも一緒に活動している芸人も何組か出演していました。


このライブに僕も出演予定でしたが、急遽東京の特番に呼ばれ、劇場をキャンセルすることになりました。


劇場のホームぺージには『バイク川崎バイクの出演はなくなりました。ご了承ください』という無機質な文字が並べられます。『出演者は予告なく変更することもあります』という文章も事前に書かれていますので、大きな文句を言う人はいません。

忙しい芸人あるあるでもあります。

テレビで、劇場がなくなることは。


そのテレビを見てくれた人が劇場に足を運んでくれる、という世界ですから。劇場も大事だけど、テレビも大事。


しかしその日、BKB目当てでチケットを買ったお客さんは多少なりともガッカリはします。(するんですよ、本当に。当時は特にいたんですよBKB目当ての人)

とはいえ、僕の出演キャンセルのことを知らないお客さんもいます。

みんながみんな事前にSNSやホームぺージを見るわけではないので。


僕は劇場が始まる時間、東京の某テレビ局の楽屋でマネージャーと打ち合わせをしていました。


東京のテレビに対する緊張、うまくいくかどうか不安が膨れ上がり、キャンセルしてもらった劇場のことは忘れてしまっていました。楽しくない楽屋でした。


そのときです。

僕の携帯電話に着信音が鳴りました。

見ると『かまいたち濱家』。


濱家は同期ではありますが、めったに連絡をとることはなく、とても珍しい状況。


「なにごと?」と思い電話に出ました。


すると濱家が「バイク!? いまどうしてる!?」とあせった感じの声。

「え、なになに、はま? 東京よ!? どしたの!? え?!」と、僕もなぜかあせります。

濱家は簡潔に続けます。


「バイク、よく聞いて。今な、ライブ始まったとこなんやけど」


「ああ、俺が出る予定やったやつ?」


「そうそう、それでな、センターの一番前の席に女子校生が座っててんけどな」


「うんうん」


「その子が、バイク目当てで遠くから初めて劇場来てくれた子やってな」


「ほう……」


「オープニングで俺らがMCで出て『バイク川崎バイクは東京仕事入って出れなくなりました、すみませーん!』って言ったら『ええ!?』って叫んでさ」


「ほうほう?」


「で、その子に『あ、バイク目当てやった? ごめんね!』って言ったら……泣いてもたのよ」


「……泣いた? え? なんで!?」


「だから、悲しくてやんか。バイク見れる思ったのにおらんから」


「マジか」


「俺もマジか? って言ったよ! はは。でもマジやったから、これはなんとかせなと思ってさ」


「うんうん」


「だから、バイク、このあと音響さんに言って、電話にマイク繋ぐから、声でその子とやりとりしてもらえる? 時間大丈夫!? 頼む!」


そんなやりとりをしました。

要は、最近露出しだしたBKBを、生で見れると思って劇場に来たらいなかった。悲しくて泣いてしまった女の子がいた。

それをなんとかしたいと立ち上がった濱家。

すぐさま音響さんに確認をとり、楽屋で出演芸人たちと相談をして、電話に至ったそうです。


僕も幸い、番組の本番まで時間はあったので、言われた通り、遠隔でその女の子と話しました。


「涙というオイル漏らさせてごめんねバイクだけにブンブン!」みたいなことを言ったと思います。


すると、電話の向こうから笑い声と、拍手が起こっているのが聞こえました。お客さんも優しく、みんながその子に感情移入してくれてたそう。


女の子も「次はいてくださいね! 電話ありがとうございます〜!」と言ってくれました。ほっと、ひと安心。


さらにこのお話には続きがあります。


電話を終え、ひと盛り上がりしたとはいえ、その後もライブは続くわけです。

生のライブで起こったイレギュラー。

良くも悪くも“余韻”は残り続けます。


これはもちろん僕は見れてないですし、聞いた話なのですが、この日出演していた他の芸人5組。

楽屋で“緊急会議”が行われたそう。


「バイクの電話だけじゃ、終われないな」と。


全員が急遽、その後、自分たちの漫才やコントのネタ中に、BKB作文や、ブンブンというフレーズをねじ込んでくれたそうです!

そのたびに盛り上がる客席。

もう涙は忘れた女子高生。


いや───ほんといい話すぎるって。マジで。なんやこの話。登場人物、最高やんみんな。


余談ですが、あの女子高生は今どうしてるのですかね。元気にしていると、いいですね。



     *



最後に。

楽屋の数だけ笑いや出会いがある。

そんな世界に身を置けることに、幸せな気持ちが湧くことを禁じ得ません。


ここまで読んでくれたあなたにも。

B僕たちの

Kこんな楽屋のような

B場所があることを願って


バイクかしこバイク